「親を特養に入れるのは、やっぱりかわいそうかな…」「私の決断は、親不孝だったんじゃないか…?」
大切なご家族の施設入所で、そんな罪悪感に悩んでいませんか?

「かわいそう」「申し訳ない」と感じるのは、ご家族を深く愛しているからこそです。実際に、多くの方が同じ気持ちを経験しています。
この記事では「特養はかわいそう」と感じてしまう気持ちの正体や、後悔しないための考え方、ご家族にできる工夫、そして特養以外の選択肢についても、現役ケアマネジャーが分かりやすく解説します。
この記事を読めば、罪悪感との向き合い方がわかり、ご本人とご家族にとって前向きな選択をするためのヒントが見つかりますので、ぜひ最後までお読みください。
なぜ「特養はかわいそう」と感じてしまうのか?罪悪感の正体

大切な親御さんを特養などの施設に入れる決断をする際には、多くのご家族は大なり小なり悩まれます。「かわいそう」「親不孝ではないか」と考えるのは、親御さんを大切に思う気持ちの裏返しだといえます。
多くのご家族が抱える3つの心理
ここでは、親御さんを特養などの老人ホームに入れる際に、ご家族が抱えがちな3つの心理を紹介します。
心理1:見捨ててしまった、という思い込みと責任感
「自分が楽をしたいから、親を見捨ててしまったのではないか」ご家族は、そんなふうにご自分を責めてしまいがちです。「最後まで家で見るのが子の務め」という責任感が強い方ほど、その傾向は強くなります。

「在宅での介護はもう限界なのに、入所を決めると親を見放した気持ちになる」と、ご家族から涙ながらに打ち明けられたことがあります。
心理2:本人の「帰りたい」という言葉
入所後、面会に行くたびに「家に帰りたい」と、親御さんに訴えられる。これほど辛いことはないでしょう。「かわいそう」という気持ちと罪悪感を感じてしまう瞬間です。

環境の変化への不安や寂しさが「帰りたい」という言葉になって表れることがよくあります。数ヵ月後には友人ができて、笑顔で過ごせるようになった例も多くあります。
心理3:「在宅介護こそが親孝行」という社会的なプレッシャー
親戚や近所の人から「施設に入れるなんて、かわいそう」と言われた、という話も耳にします。「家で介護を続けるべき」という見えない圧力が、ご家族の罪悪感を大きくしてしまうこともあるのです。

実は、介護をあまり手伝わないご親族ほど「施設はかわいそう」と否定的な発言をされる傾向があります。面と向かって「では、あなたが介護してくださいますか?」と言うのは難しいかもしれませんが、心の中でそう思うだけでも、少し気持ちが楽になりますよ。
特養でのリアルな生活とは?
ここでは、特養の日常生活の様子について解説いたします。それでは、詳しくみていきましょう。
よくある誤解①:「会話もなく孤独な生活」は本当か?
もちろん、ひとりで静かに過ごす時間を大切にする方もいらっしゃいます。しかし、多くの施設では、季節の行事、レクリエーション、体操などが企画され、他の入居者やスタッフとの交流の機会が設けられています。
食堂でのおしゃべりを楽しみにしている方も多いです。施設見学の際は、ぜひ入居者の方の表情や、スタッフとの会話の様子を見てみてください。
よくある誤解②:「すべてを管理され自由がない」のか?
特養は、集団生活の場です。よって、食事や入浴などの時間は、ある程度スケジュールで決まっています。これを「管理されている」と感じる方もいますが、実際には快適に生活していただくためのサポートなのです。

特養では、一人ひとりに合わせた「ケアプラン」が作成されます。私たちケアマネジャーは、ご本人の「散歩がしたい」「小物作りがしたい」といった希望をできる限り反映させるようお手伝いしています。
特養の課題とデメリット

もちろん、特養にも知っておくべき課題やデメリットはあります。良い面だけでなく、現実的な側面もあらかじめ理解しておくことが、「こんなはずじゃなかった」という後悔を防ぐことにつながります。
入所待機期間の長さ
特養は、費用が比較的安価で入所できるため人気が高く、入所待ちが長いのが大きな課題です。地域によっては、数年単位で入所できないことも珍しくありません。
ひとり暮らしなど、入所の必要性が高い方から優先されるため、早めに申し込みをしておくことが重要です。

私が担当するご家族でも「今すぐお願いしたい」と申し込んだものの、数年待ちと説明され、ビックリされていたケースがありました
医療ケアや費用面の限界
特養はあくまで「生活の場」であり、病院ではありません。そのため、常時の医療的ケアが必要になると、退去しなくてはならないケースもあります。
また費用面についても、近年増えているユニット型個室は、従来型の多床室に比べて居住費が高くなる傾向があります。
それでも特養を選ぶ理由
課題やデメリットがあっても、多くのご家族が特養を選ぶのは、それだけの必要性があるからです。
在宅介護の限界とご家族の疲弊
在宅介護は、24時間365日続きます。介護する側の心身には、大きな負担がかかるものです。
夜間の見守りや徘徊への対応、入浴や排泄介助…。最初は「自分が頑張れば」と思っていても、介護が長期化する中で、限界を感じる方は少なくありません。

私が担当したご家族でも、夜中に何度も呼び出されて睡眠不足になり、体調を崩したことで、施設入居を決断されたケースがありました
安全・安心に暮らせる
特養では、24時間体制で介護スタッフが常駐しています。食事や入浴、排泄などのサポートを受けることが可能です。急変時には看護職員が対応し、必要に応じて医療機関と連携する体制もあります。
在宅では、転倒などのトラブルにすぐ対応できないこともあるかもしれません。しかし、特養では日常的に見守りが行われているため、安心して生活できるのです。
「かわいそう」と感じたときにできる工夫

施設入所後、ご家族ができることは多いです。ここでは「かわいそう」と感じたときにできる工夫3つを紹介します。
面会や交流で孤独感を和らげる
ただ会いに行くだけでなく、面会の「質」を高める工夫をしましょう。
- 一緒に施設の周囲を散歩する
- 好きな雑誌やお菓子を差し入れる
- 昔のアルバムを見ながら思い出話をする
短い時間でも、以上のような関わりがご本人の孤独感を和らげ、ご本人の喜びにつながります。
スタッフとのコミュニケーション
「かわいそう」という気持ちの背景には「施設でどう過ごしているのか分からない」という不安感があります。気になることがあれば、スタッフに気軽に質問したり相談しましょう。信頼関係が築けると安心感も高まります。

「母は昔、書道が得意だったんですよ」というご家族の一言がきっかけで、レクリエーションでの活躍の場が広がった、ということもありました。
家族だからこそできるサポート
使い慣れたクッションやひざ掛けを持ち込む、好きな音楽のCDを届けるなど、ご本人が少しでも「自分の居場所」と感じられるような環境づくりを手伝うことも、ご家族だからこそできる大切なサポートです。

これまでの生活歴を知っているご家族だからこそ、できることがあります。例えば、ご本人が大切にされていたCDや、昔よく読んでいた本をお持ちするだけでも、きっと喜ばれますよ。
罪悪感との向き合い方

施設入所の際に、罪悪感を持つ方も少なくありません。その感情は、親御さんを大切に思うからこそ生まれるものです。
「かわいそう」は愛情の裏返し
「施設に入れるのは、かわいそう」と感じるのは、親御さんへの愛情が深い証拠です。「自分は、親の安全な生活を願って決断した」と自覚することが大切です。
罪悪感を「愛情の形」と捉えることで、少し気持ちが楽になります。

どうか、ご自身を責めないでください。ご家族に「こんなに悩んでいる時点で、すでに親孝行していますよ」とお伝えしたことがあります」
施設入居はご本人とご家族にとって必要な選択
施設入居は「介護する側・される側」という関係から、再び「親子」という関係に戻るための、前向きな選択肢でもあります。
介護負担から解放され、穏やかな気持ちで面会に行けること。
それこそが、ご本人とご家族にとって、新しい「幸せの形」かもしれません。
特養以外の選択肢もある
介護施設やサービスには、特養以外にもさまざまな選択肢があります。
- 有料老人ホーム:介護体制や医療連携が充実している施設が多く、安心感を重視したいご家庭に選ばれます。中には、特養と同程度の費用で利用できる施設もあります。
- サービス付き高齢者向け住宅(サ高住):自立度が高い方や軽度の介護が必要な方向け。自由度が高く、外部の介護サービスを必要に応じて利用できます。
- グループホーム:認知症のある方が少人数で家庭的な雰囲気の中で暮らせる施設です。「落ち着いた環境で過ごさせたい」という希望に合います。
- 小規模多機能型居宅介護:「通い・訪問・宿泊」を組み合わせて在宅生活を支えるサービスです。「できるだけ自宅で暮らしたい」という方に適しています。
以上のように、介護施設やサービスの種類は多様です。ご本人やご家族の希望によって、最適な施設は異なります。特養だけにこだわらず、複数の選択肢を比較検討することが大切です。
まとめ

「特養に親を入れるのはかわいそう」という気持ちは、多くのご家族が抱く感情です。罪悪感や不安は、親御さんを大切に思う気持ちの裏返しでもあります。
しかし、在宅介護には限界があり、ご家族が無理を続ければ、ご本人の生活にも影響します。特養は、24時間体制で見守りがあり、安心して生活できます。
- 「かわいそう」という気持ちは愛情の証
- 家族の関わりで生活の質は大きく変わる
- 特養以外にも、有料老人ホーム・サ高住などの選択肢がある

大切なのは「どこで生活するか」ではなく「安心して暮らせるか」です。
どうか、ひとりで抱え込まないでください。ケアマネジャーや施設スタッフと相談しながら、後悔のない選択をしていきましょう。