はじめに
今回は、高齢者デイサービスでの困難事例について書きたいと思います。
取り上げるテーマは「徘徊」です。
この記事は、次のような事で悩んでいる人を対象に書かれています。
- 介護施設で「徘徊」や「帰宅願望」の強い利用者さんの対応に困っている
- スタッフが一生懸命に対応しているが、ご家族やケアマネジャーが今一つ親身になってくれない
- 他の利用者さんに関わる事が出来ず、スタッフの不満も高まっている
「徘徊」はスタッフの手も取られるし、他の利用者さんへ関わる機会も減ってしまいます。
スタッフは適切な対応をしているけど、効果が無くもう限界・・・。
本当に大変ですよね。
私も、デイサービスで施設長をしているのでよく分かります。
この記事を読むと、次のことが分かります。
- ケアマネさんやご家族さんに「本気になってもらう」方法
- 不満が高まっているスタッフ達との信頼関係を保つ方法
- 「三方よし」(本人ご家族・スタッフ・ケアマネ)にする方法
あくまでも、今回私の勤務するデイサービスでのケースです。
全てに当てはまるわけではありませんが、「こういうケースもある」と参考にしていただければ幸いです。
結論から言いますと、以下の通りです。
- 担当者会議を開いてもらい、必要に応じて病院受診をしてもらう
- 時には、スタッフの意志を最優先する
- 家族へ「選択肢があることを自覚してもらう」
- スタッフへ「努力は報われることを示す」
- ケアマネジャーへ「これからの舵取りをしてもらう」
それでは、詳しく見て行きたいと思います。
デイサービスのある利用者さんについて
私はデイサービスで施設長をしています。
デイサービスの利用者様(Aさん)は、1日に数十回施設の外へ出られます。
いわゆる「徘徊」といわれる行為です。
認知症高齢者への差別的な言葉とも言われ、「一人歩き」などの言葉に改める動きもあるようです。
ここでは、一般的に「徘徊」で統一します。
施設の外へでてしまうことも・・・
Aさんは、時々施設の外へ出てしまう事があります。
自動車が来ているのに、車道へ飛び出そうとすることがあります。
幸い、今のところ事故は起こっていません。
しかし、スタッフは精神的な苦痛を受けています。
他の利用者とも関わる時間が少なくなり、ストレスとなっているのです。
スタッフの意見
全スタッフが参加する「フロア会議」で、以下の意見が出ました。
- 向精神薬は処方されているが、家人が服薬させていない日があるのではないか。
- 服薬がある日は比較的穏やか。服薬が無い日は、何度も外へ出る。
- 外へ出て、自動車事故にでも遭ったらと思うと怖い。
- 他の利用者へ関われないのが苦痛。
「服薬していない日」があるのは、ご家族が副作用などを気にされ調整されている様子です。
これ以上、スタッフに負担を強いることは出来ません。
そこで、私はケアマネジャーへ担当者会議の開催を要請しました。
担当者会議の開催
担当者会議を開催してもらい、会議で出た内容をそのまま伝えました。
ここで大切なのは、スタッフ全員の総意であることを強調したことです。
管理者個人の意見でなく、スタッフの意見の方が説得力を持ちます。
結果、次のことを了承して頂きました。
- 薬は必ず毎日服薬させる
- Aさんを連れて病院受診し、常に状態を主治医に診てもらう
実は、これまでAさんを連れて病院受診をしていませんでした。
家人が、Aさんの様子を伝えて薬を処方してもらっていたのです。
しかし、上記のようにAさん本人が受診し状態を診てもらえることになりました。
家人・ケアマネジャーが親身に・・・
今回の担当者会議までに、Aさんの状態は家人やケアマネジャーへ伝えてはいました。
しかし、「家族も同じように大変だから」と今一つ親身になってくれませんでした。
そこで今回は担当者会議にて、
「スタッフの頑張りにも限界がある。お薬を飲ませないのは自由だが、外に出て自動車事故に遭えばスタッフは一生心に傷を負う。それならお家で見てください。」
と話しました。
少し厳しいかもしれませんが、服薬をせず車道に飛び出して事故にでも遭ったら・・・。
スタッフは一生、心に傷を負います。
介護の仕事を続けることが出来ないかもしれません。
ご家族は真剣に検討し、「薬を服薬させデイサービスを利用する」ことを選択されました。
スタッフを守るために、時には厳しい言葉を使わなければならない事もあるのかもしれません。
不満が高まっているスタッフとの信頼関係を保つには
1日に何度も外へ出るAさん・・・。事故のリスクに恐れながらケアをしている・・・。
私は、スタッフを最優先して守るべきだと思います。
もちろん、楽をしたいから利用者さんを選り好みするのは問題外です。
実は、今回担当者会議で決まった「Aさん本人を連れた病院受診」はスタッフの提案です。
当初、ケアマネジャーや家人は「Aさんを連れて行っても効果はない」ような内容のコメントをしていました。
しかし、毎日懸命にケアをしているスタッフの意見です。
私は、「Aさん本人の受診」を強く希望しました。
効果があるかどうかは別の問題です。
スタッフの意見だから、通したのです。
毎回ではありませんが、時にはスタッフの意見を最優先する時があって良いと思います。
本人と家族・スタッフ・ケアマネ「三方よし」に
適切なケアを提供する為には、「本人と家族・スタッフ・ケアマネ」のチーム全員が我慢や無理をせず役割を果たさねばなりません。
では、それぞれが「よし」の状態になるにはどうすればいいのでしょうか?
家人の「よし」
家人は、服薬することに抵抗を感じています。
しかし、Aさんをデイサービスに行かせるためには服薬しなければなりません。
それなら、服薬をせずに「自宅でみる」選択肢もあるのです。
また、施設入所という方法もあります。
「こうしなければ!」という強迫観念は苦しいです。
全く別の方法があることも、冷静に見てもらうべきだと思います。
ご家族が倒れてしまっては、介護の意味がありません。
スタッフの「よし」
スタッフは、
「正しいケア、賢明なケア」を提供していれば、管理者が守ってくれる
と信じて業務に当たっています。
もちろん、スタッフの意見が全て通るのではありません。
「利用者を大切にし、適切なケアを行えば法人に守って貰える」と感じてもらいたいのです。
法人がスタッフを大切にすれば、スタッフは利用者を大切にします。
私は、そう信じています。
ケアマネジャーの「よし」
利用者・家族・事業所がそれぞれの役割を果たし、チームが機能していればケアマネジャーは次の段階を考えることが出来ます。
今回は、Aさん本人の口から「将来の希望」などを聞き出すことが困難です。
理由は、重度の認知症だからです。
家人は、自宅で見ることを前提に考えていますがショートステイの利用なども考慮しながら負担を軽減する方法もあると思います。
未来を見据えた提案は、ケアマネジャーにしか出来ません。
今回は、大変難しいケースですがチームをまとめてほしいと思います。
最後に
今回は、実際に私の勤務するデイサービスであった事例を基にお話しました。
困難なケースほど、家人・ケアマネジャーや事業所がそれぞれの役割を果たし、力を合わせることが重要です。
しかし、こちらの危機感が今一つ伝わらない場合もあります。
今回、チームを順調に機能させる為にとった行動は以下の通りです。
- 担当者会議を開いてもらい、必要に応じて病院受診をしてもらう
- 時には、スタッフの意志を最優先する
- 家族へ「選択肢があることを自覚してもらう」
- スタッフへ「努力は報われることを示す」
- ケアマネジャーへ「これからの舵取りをしてもらう」
時には、家人やケアマネジャーへ厳しい言葉で訴えることも必要です。
管理者が何よりも大切にするべきは、スタッフだと思います。
もちろん、虐待や不適切なケアは問題外です。
適切なケアを行っていれば、法人はスタッフをを守ってくれる
そう信じてもらうことが大切です。
法人がスタッフを大切にすれば、スタッフは利用者を大切にします。
また、ご家族は「自分たちで見なければ・・・」とオーバーワークしてしまいがちです。
ショートステイや施設入所など、別の方法があることも提示するべきです。
使用するかどうかは別として、家族は選択肢があるだけでも楽になります。
そこは、ケアマネジャーにしか出来ない役割です。
今回は厳しい表現もありましたが、最も大切なのは信頼関係だと思います。
信頼関係を築くために、時にはぶつかることも必要かもしれません。
本人・家族、事業所、ケアマネジャーがそれぞれの力を最大に発揮することが、良いケアに繋がります。
主張すべきことは主張し、力を発揮しやすい環境を整えて行きましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。